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2012年8月19日 (日)

「猪買い」は江戸でできるか 7

 「江戸近郊におけるニホンジカ・イノシシの生息状況」という気になるタイトルが検索にかかります。野生生物保護学会で発行する機関誌「ワイルドライフ・フォーラム」6巻3号(2001年2月号)に掲載されたものです。国会図書館で読みましたが、農工大の先生方のレポートです。残念ながら大会での口頭発表のレポートで論文そのものではないので、概略だけでした。保護学会は”現在”の報告が主なので貴重です。

 それによると、「鷹場の鹿狩りの資料からは1633年~1693年の間に鹿183頭、猪42頭が狩猟された。鉄砲許可願いなどの文書が各地に残っており、獲物数も記録がある。江戸近郊、洪積世台地・沖積層平野に生息分布が確認される」とあります。地図などの資料もなく詳細な論文がでればいいと思います。


 たんねんに、自分の地域のことをまとめる人はいるもので、新井博「川越市今福の沿革史」(今福菅原神社氏子会)という本を借りました。おそらく市販せず、氏子など関係者だけに配布された資料と思われます。

 400ページを超える労作ですが、その1節に「鉄砲拝借と猪、鹿退治」というタイトルがついています。今福というのは、川越市でも南に下った街道沿いの地域です。先の「鉄砲を手放さなかった百姓たち」では、川越藩の例が載っていて、この資料は参考にしていないようですが、より具体的な地名です。あとは時代が合えば。

 本家川越市では禁帯出資料ですので、県立図書館のほうから取り寄せてもらいました。該当の節には、今福村周辺で猪・鹿・狼などが繁殖して畑作物や苗木を荒らしたので、寛政7年(1795)に4カ村合同で藩に対して鉄砲拝借願いを出しました。その結果、10丁の鉄砲が貸し出され、その受け取り証文が掲載されています。貸出期間は4月1日から7月29日までで、借用人の村・氏名に加えて石高、弾丸の量、江戸からの距離も記載されたものです。
 うち今福村ではその成果が報告されていて、猪・鹿各1頭が仕留められました。さらに翌年も拝借願いが出されています。

 その後の文書は残っていないようですが、この2年で害獣を根絶したとも思えません。1795年では2、30年ほど早い気がしますが、川越南部なら江戸から1日で来られますし、周辺地域まで拡大して考えれば「猪買い」の舞台としてもかまわないではないでしょうか。

 明治になって入間県が調査したところ、近隣地域に29丁の鉄砲が数え上げられています。その数は城下を中心に、83丁にのぼりました。藩が解体して下賜されたか、農兵となった時に手に入れたかは不明ですが、需要はあったものと思われます。

 今回はたまたま検索で発見しましたが、地誌をていねいに探すとおもしろい結果が出るのかもしれません。

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コメント

結局、そのような資料は地元の方の努力で今まで保存されていたのですね。貴重だと思います。
たんねんに資料を当たって行けば良いとは思いますが、膨大な時間と労力が必要ですね。
川越だったら船で行く事が出来るので、戸田あたりまで歩いて・・・と言う風にも出来ますね(^^)

投稿: hajime | 2012年8月19日 (日) 15時36分

>関係者の努力

 そうですね。その当時のあまりに日常的なことは記録に残されません。だから飢饉のこと・水争いなどの事件は割に残っていますし、調べる人もいます。獣害はありふれた日常だったことで、また時代が下ると消滅してしまったので、注目もされないのでしょう。

 図書館に行くたびに地誌はぽつぽつと見てはいます。そういうわけで、なかなか記事になりずらいことなので記載がありません。自然については現在や少し前の失われた自然が中心だし、歴史面からだと、政治が重視した鷹狩で鳥について記述したものばかりです。
 ついでの折にチェックはしようと思います。

 それにしても鷹狩り。一面では開発を規制して、明治までは自然を保存しました。その範囲は思ったより広かったようです。
 もう一面では農業の発展さえ阻害し、川魚漁も鳥のえさの確保のため禁止したところもあります。
 獣害の直接の原因としても住処に手を付けられなかったことと、間接的には効果的な鉄砲猟を規制したこと、鷹狩関連とも思えます。確かに歴史に残る制度だったのでしょう。

投稿: snob | 2012年8月19日 (日) 16時54分

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