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2012年8月26日 (日)

「猪買い」は江戸でできるんじゃないかな

 所詮1次資料にあたることのない、誰かの研究の成果をさらおうという姿勢なので急進展はないでしょう。ここらでいったんまとめておきます。

 鷹場の制度のせいで、江戸十里四方(半径五里)では鉄砲は使用できませんし、その外側でも使用はかなり規制されました。職業猟師はさらに外側の山間部にしかいません。江戸のももんじやへの仕入れはかなり遠くから水運を利用して行われました。
 落語家が「池田の猪買い」を江戸に移して…と思ったとき、”江戸からじゃ猟師に会えないんだよ”、と一蹴されるのもわかります。
 もとより、「夏の医者」「そば清」「元犬」など非現実ものを抱える落語も、けっこうそういう指摘には弱いものです。

 それを回避するには、”大阪へ旅した江戸っ子が池田に行く” ”旅の途中、小田原あたりの宿で山の猟師を紹介される” ”2,3日かけて江戸から秩父や丹沢・群馬に出かけていく”方法が考えられます。

 しかし、近郊でも鷹場保護のせいで、猪の獣害が江戸後期までありました。その撃退は落とし穴・槍・空砲など非効率なものでしたが、ときには実弾を許可されて、鳥に害がないように慎重に狩猟しました。鉄砲の使用はだれでも許可されたのではなく、毎回特定の人物だったと推定されます。期間は主に春から夏ですが、雪のちらつく暮れまで許可がでることもありました。

 そこで、大家さんに相談すると、近郊の田舎で親戚が毎年猪を獲るから、そこを紹介するという設定が成り立ちます。その人はパートタイム猟師で、村のためにときどき鉄砲を使います。獲った猪は流通には乗りません。村内で処理するとか、獲った人の役得になります。川越方面か松戸、越谷、東久留米あたりを想定して、「池田」のような有名な産地はありませんから、地名は出しません。

 こんな設定は噺の中に持ち出す必要はありませんが、新鮮な肉・江戸から1日・雪中の猟と舞台は整います。

 せっかちな江戸っ子とのんびりした田舎の人とのやり取りは、上方落語とは違った味が出るのではないでしょうか。最初のうちはぎこちないでしょうが、数年かければやがてこなれます。

 素人の思考実験で、誰かが高座にかけるわけじゃないですが、長い期間にわたって楽しむことができました。これからも折に触れて資料を探してみようと思います。

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コメント

今までの集大成ですね。
鉄砲の使用だとか、色々と新しい事を知ることが出来ました。
ありがとう御座います(^^)

投稿: hajime | 2012年8月26日 (日) 11時12分

 きっかけは、hajimeさんのブログでのnamさんも交えた疑問からでした。たまたま落語CDのために図書館を徘徊している、そんな身には手を伸ばせばいくつかの資料に届きました。面白い体験となりました。

投稿: snob | 2012年8月26日 (日) 13時32分

知的好奇心が擽られて、この記事シリーズは楽しく読ませて頂きました。

私は学生時代は暗記が苦手なこともあって歴史が不得意でしたが、snobさんやhajimeさん、薮さんのblogで江戸時代を中心とした歴史関係の本を読むようになりました。
最初は杉浦日向子氏辺りから、次第にもう少し専門的なものも。といっても新書留まりですが。
相変わらず暗記が出来ないので、読む端からボロボロ忘れていきます(泣
それでも楽しいですね。

投稿: nam | 2012年8月29日 (水) 21時20分

 杉浦日向子さんの文庫本は一時期買い集めました。歴史は学校では基本的な事項を習うだけなので、こまかな事実に面白さがあるのですね。為政者のそれよりは、今の生活が、関東に住んでいるからなのか、江戸時代から直接的につながっていることが多い、と知った大人になってから興味を持ちました。
 子供のころは、攘夷の人たちが、なんで開国するか理解できませんでした。

 落語は事実と同じじゃないでしょうけど、生活が感じられて、そういう面白さもあります。

投稿: snob | 2012年8月29日 (水) 23時51分

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