« 小石川後楽園 | トップページ | 千字寄席(PHP研究所) »

2012年11月29日 (木)

定本 落語三百題(岩波書店)

 2007年発行、タイトル通り300の噺について解説しています。8190円。著者は朝日新聞社で古典全書を編纂するなどのあと大学教授、やはり東大出身です。この本の参考書の中に、「落語事典」も含まれています。もともとは「落語三百題-落語の戸籍調ベ(上・下)」(1969年・東京堂出版)の合本再刊です。
Rakugo300

 では「時そば」の解説を。

時そば 夜泣きそば屋が売りに歩いていると、一人の若い男「おい、しっぱくを一つこしらえてくんねい。寒いなあ今夜は。おめえのとこの看板。的に矢が当たっててあたり屋か。おれはこれから手慰みに行くんだが、あたり屋とは縁起がいいや。もうできたのかい。オヤ、割箸とはきれいごとだね。また器がいいや。ウン鰹節をおごったナ、それに細くて腰が強くていいそばだ。竹輪も本物だし厚く切ってあらァ……アアうまかった。十六文か。小銭だ、間違えるといけねえから手を出しねえ。ひい、ふう、みい、よ、いつ、むう、なな、やあ、何時だい?」「へえ九刻で」「とお、十一、十二……十五、十六」と勘定を払ってプイッと行ってしまった。これをみていた与太郎、あまり調子がいいので最初は食い逃げかと思ってたが、調子よく話しかけて、結局一文かすめたと気づいて面白がり、翌晩小銭を用意して夜泣きそばを待ち受ける。「オイ、しっぽくをくんねい。寒いなあ。ナニ今晩はあたたかい、ウン昨夜は寒かったなあ、おめえんとこの看板、変わってるな、的に矢・・・・・・じゃなくて丸がかいてある、丸屋か。まだそばは出来ねいのか。割箸・・・・・・じゃねえナ。この方が割る世話がなくていいんだ。器はと・・・・・・これ洗ったのかい?きたねえなあ。でもダシはおごっているだろう・・・・・・オイ湯をうめてくれ、にがいや。そばは細いほう・・・・・・これ、うどんじゃないのかい、太い方がいいや、食いでがあって。竹輪はよくもこう薄く切れたもんだネ、これは本物の麩だね。おれ、もうよすよ。おい、いくらだい」「へい、十六文で」「小銭だから、手を出しねえ、ひい、ふう、みい、よう、いつ、むう、なな、やあ、なんどきだい?」「へい、四刻で」「いつ、むう、なな・・・・・・」
300ins_2
〔鑑賞〕 はじめの男は、仕込んだ通り万事調子のよい誉め言葉の連続で、そばやの気持ちをうまくまるめこみ、トントンと事を運び、うまい勘定の仕方で首尾よく一文得して帰る。これにならった与太郎は、一応先夜の男の口真似をしたものの、そばやの実態がまるで違うため一向にかみ合わず、トンチンカンな応答の上、時刻を違えて出たために、折角お目当ての計算がかえって損する羽目に陥る、その巧拙の対照が妙で、短いながら笑いの多い広く知られた噺である。原話としては江戸小咄にも「夜鷹そば」(芳野山・安永一)などが他出するが、先行の軽口噺を示そう。窮余の一策で実際譚のようにもみえる。
お中間、お使に出て、先様でひまが入つて、日は暮れる腹は減る。鎌倉河岸で蕎麦切を食ひ「亭主今のはいくらぞ」「六文でござる」。煙草入の底に五文ならでなし。よもや負けはせまいと思案して、かの銭を「一ツ二ツ三ツ。亭主、なんどきぞ」「四ツでござる」「四ツか。五ツ六ツ」と数へてやつた。(軽口初笑巻三・享保十一・他人は喰より)

|

« 小石川後楽園 | トップページ | 千字寄席(PHP研究所) »

コメント

 平成11年だったかに発行された五種類の落語切手は、山藤章二さんの素晴らしい似顔絵イラストで、志ん生の「火焔太鼓」、文楽の「船徳」、圓生の「小言幸兵衛」、小さんの「時そば」、米朝の「百年目」でした。
http://blogs.yahoo.co.jp/yacup/654374.html

 私のように半世紀以上落語を聴いてきた人間から云わせると・・・小さんを出すんなら「うどん屋」だろって思うんです。「時そば」を出すんなら柳橋ですよ。この文章を読んだだけで私には柳橋さんの語りが浮かんできます。

 残念ながら近年の東京の落語界ってのは安藤鶴夫や談志などの芸協の噺家さん達に対して敬意を払わなかった連中によって捻じ曲げられてきたのではないかと思ってます。

 噺家の紫綬褒章の受章者を調べてみたら・・・上方落語協会=8人。東京落語協会=5人。落語芸術協会=ゼロ。どう考えたって変でしょ?

 確かに落協会長の小三治は上手いけど、演目によっては芸協会長の歌さんの方が上手いですよ(^ω^)

投稿: 藪井竹庵 | 2012年11月29日 (木) 08時13分

 歌丸さんの語りはうまいですね。まだあまり落語を知らなかったころ、ついていたTVで引き込まれしまったことがあります。

投稿: snob | 2012年11月29日 (木) 09時07分

この本は見たことが有りませんが学術書に近い感じでしょうか?値段からしてちょっと手がでません。
岩波書店のサイトをみると『落語の梗概を収めたいわゆる「演目事典」とは異なり,現行落語と江戸時代の文献との関連を解明することを意図しています.』とのことのようです。

岩波のサイトには江戸時代の笑話集かららしきイラストが掲載されていて、時そばも有りました。これはちょっと見てみたいのですが、書籍にも掲載されているのかしら?

投稿: nam | 2012年11月29日 (木) 12時45分

>イラスト

外出先ではアップできませんでしたので帰宅後行いました。

岩波のサイトは見ていませんでした。もともと事典ではないとのことですが、50音順に編集しなおして事典の性格は強く出ていると思います。

投稿: snob | 2012年11月30日 (金) 07時03分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 定本 落語三百題(岩波書店):

« 小石川後楽園 | トップページ | 千字寄席(PHP研究所) »