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2012年12月23日 (日)

古典落語100席(PHP文庫)

 文庫としては1997年発行ですが、元は1992年に単行本だったもの。編集はPHP研究所。立川志の輔・選/監修とありますが、どこまでかかわったかは不明です。ただ、「粗忽長屋」の見出しが「主観長屋」となっているのは立川流の主張を前面に立てたのでしょう。
 時期的に同じ出版社の「千字寄席」に先立っていますが、現行本で購入することができます。520円。
Php100

 同じ立川流の志らくが「落語のあらすじ紹介本はどれもつまらない。落語そのものを聞いたほうがよい。落語家・ファンがあの噺はどんなだったけ?としらべたいときに必要性が生じる」と書いていますが、それには100席ではとても足りなません。この本に収められているのはファン以上ならだれもが知っている噺だからです。とすると落語を何席か聞いて興味を持った初心者向けということになります。そうなっているでしょうか。
 まず、目次をみると50音順に並んでいません。分類別になっていますが、どんな分類かというと「現代SFもびっくりの奇想天外な噺」「情緒たっぷりの廓噺」「ほっとする親子噺」などです。「親子酒」がほっとする内容かどうかはさておき、索引もありません。一席2ページであらすじが主です。ではページを開きます。

喉が鳴り、笑いが吹き出す江戸の味
時そば
◎―鐘の音と聞いて除夜を連想するようじゃ、落語常識を疑われる。この噺を思い出さなきゃ。
「そばぁうぃぃ」天秤棒をかついて歩くそば屋を、いかにも江戸っ子の職人が呼び止めた。
「しっぽく一つこしらえてくんねえ。寒いねえ」
「今晩は大変お寒うございます」
おめぇんとこの看板は変わってるな。こりゃ的に矢が当たってて、あたり屋。いい看板だなあ」
 看板をほめているうちに、そばができる。
「おっ、はええじゃねえか。気がきいているね。江戸っ子は気が短えからね」
 割箸をほめ、丼をほめ、汁を一口飲んでまたほめる。
「鰹節をおごったね」
 そばをつまんでさらにほめる。「いいそばだね。腰が強くって、ポキポキしてやがら。チクワも厚く切ったね。なかなかこう厚くは切らねえもんだ。うすいといたいたしいやね」。
 やがて勘定。そば屋が十六文だと言うと、職人は小銭を取りだし一枚ずつ数えながらそば屋の手へ「一つ、二つ」。八つまできて突然、大きな声で「何刻だい」。そば屋が「へえ、九つで」「十、十一、十二、十三、十四、十五、十六」と銭を渡していってしまった。
 この様子を陰からこっそり見ていたのが、ちょっとボーッとした野郎。
「あん畜生、よくしゃべりやがったなあ。はなからしまいまでよくしゃべるから、食い逃げかと思ったら、銭を払ってやがる」
 様子を思い出しているうちに、職人が一文ごまかしたことに気がつき、翌晩、小銭を用意し、まねしようとそばを食いに出かけた。
「しっぽくこしらえてくんねえ。寒いねえ」
「へえ、今晩はお暖かいようですな」
「お前んとこの看板は変わってるね。こりゃ的に矢が……当たってねえや。ずいぶんあっさりしてやんな。丸が書いてある。丸屋あ、ああそう」
 と、なんだかうまくいかない。
 そばのできは遅いし、丼はひびだらけ。「こりゃノコギリにも使えていい」などと無理にほめ、そばをつまんで「そばは細いほう……ん、これうどんなの。ああ、そば、そばも太いほうがいいや食いでがあって。チクワは……、お前んとこはチクワ入れないの。え、入ってます。あった、あったよ、丼へピッタリくっついて。こりゃ薄いや、向こうがすけて見えらあ。もっとも厚くたってまがいにフを使っている店もある。お前んとこは本物、あー、本物のフだ」
 とにかく勘定をということになり、そわそわと小銭を取りだす。
「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ。何刻だい」
「へえ、四つで」
「五つ、六つ、七つ」
解説 これほど先が読めていても楽しめる落語はない。逆に言えば、予想通りになる瞬間の言葉と間と縁起を楽しんでもらいたい。もちろんそばの音も。

 確かに裏表紙の惹句に、「古典落語入門の決定版」と書いてありました。それでも、次の「居酒屋」の解説に「先代の七代目金馬」なんて表現にあたるとげんなりです。

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コメント

しばらく落語から離れて再び聞き出した頃だったかな?まさしく落語の聞き始めの頃に買いました。
気に入った噺があると、この本をめくって同系統のストーリーのネタを探してテープを買うのです。
もしくは粗筋を読んで面白そうなのを買うとか。

 「居残り佐平次」が面白かった→良く分からないけど「お祭り佐七」って似たような噺かも、佐平次と佐七って似てるし…
 人情噺を聴いてみたい→「品川心中」って人情噺っぽいタイトルだな…

冗談じゃなくこんな↑感じでした。


同じPHP文庫に柳家権太楼師匠が50席を紹介する本が有って、そちらは権太楼師の個性が色濃く出てましたね。「この噺は好きじゃない」と書いているネタも有ったような。

投稿: nam | 2012年12月24日 (月) 22時41分

まさに(再)入門に役立ったとはよい巡りあわせを持ちましたね。

あらすじ・情報と速記、それに音源・映像がリンクしたデータベースがあれば最強ですね。

投稿: snob | 2012年12月25日 (火) 14時49分

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