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2012年12月 6日 (木)

落語手帖(講談社)

 矢野誠一さんの本、現行のものは「新版・落語手帖」(講談社・2009年)となりますが、古本で以前のものも手に入れることは不可能ではありません。だから最初の版(駸々堂・1988年)、講談社α文庫版(1994年)も図書館で借りてみました。手元に置くなら文庫版という主義なのですが、様子を確認したほうがいいでしょう。一度に見比べることができるのはありがたいことです。

 それというのも、後の版でかなり手を入れているようなのです。「新版」の前書きにその違いが記述してあります。
「新たにといっても、二百七十四篇おさめた駸々堂版から二篇を割愛し、新たに二篇を書き下ろしたこと、その後にあった落語家の襲改名にともなう代数の表示、若干の誤植修正」です。α文庫版の凡例には「二三八作品を選んだ」とあります。
 となるとその入れ替えた二篇は何なのか気になります。α文庫版はそこまで割愛されているなら候補としなくてよいでしょう。
 駸々堂版の「按摩の炬燵」「松田加賀」がぬけ、新版には「松竹梅」「田能久」が加わっています。
 どの版も巻末に「落語の演目」の索引があります。目次と違って、550席を超える題名が並び(別名も含む)、うち本書に記録されているものを太字で表現しています。その部分にも若干の違いがあります。
 α文庫版では判型から2ページ見開きで1席、他の2冊は1ページ1席で組まれていて、見やすいです。
 買うなら「新版」というありきたりの結論になりましたが、割愛された2篇はせっかくなのでコピーしておくことにします。
Techo

 さて、「時そば」は

 時そば ときそば = 時うどん
【梗概】 往来を流している夜鷹蕎麦をよびとめた男。看板がいい、あつらえてすぐできる、割箸を使っている、丼がいい、だしがいい、蕎麦が細くて腰がある、竹輪が厚いと、さんざほめちぎったあげく、「いくらだい? 十六文、銭は細かいよ。一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、何どきだい?」「九つで……」「とお、十一、十二……」と、うまく一文ごまかしてしまった。これを見ていた、少しばかりぽおっとした男、俺もやってみようと翌る日こまかい銭を用意して、別の蕎麦屋をつかまえた。前日の男のやったとおりにお世辞をいおうとするのだが、割箸も、丼も、だしも、蕎麦も、竹輪もすべてがひどくてほめようがない。勘定を払う段になって、「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、何どきだい」「四つで」「五つ、六つ、七つ……」。
【成立】 一七二六年(享保11)『軽口初笑』「他人は喰より」、一七七三年(安永2)『坐笑産』「あま酒」、一七八二年(天明2)『富久喜多留』「甘酒」と原話とみられる小咄は少なくない。大阪は『時うどん』
【鑑賞】 死ぬ一と月ほど前に会った時、3桂三木助は、「こないだ”とんち教室”で秋田へ行ってきたんですが、汽車ン中で、みんな鰻弁当だの駅弁なんかをうまそうにやってるんですがね、あたしも食べたいなァと思いましたが我慢して、食堂車へ行ってトーストとポタージュってやつを食べたんですがね」といっていかにも淋し気であった。やがて寝たっきりになって、ほとんど何も喉を通らなくなってからも、蕎麦だけは「食べたい」「食べたい」といっていた。蕎麦が大好物だった。だから―というわけではないが、彼の『時そば』の中にはさむ”味覚談議”は、あたりまえのことを、さらりと喋って、しかも非常に面白い。江國滋
【藝談】 やっているあいだに、ただ喋っているだけで気分が出ないとダメなんです。『時そば』だってそうですよ。寒いところでなくちゃいけねえ。その中の前の男と真似した男とは、人物がやっぱり変わらなければいけない。それがこの頃はかわってないんです。みんな同じやつが来てやったということになる。それではサマにならない。5柳家小さん
【能書】 夜鷹蕎麦を「二八蕎麦」ともいうのは、小麦粉との割合や、十六文の値段から。

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コメント

その程度の違いなら旧版を持っている私は新版に買い換える必要はなさそうですね。
この本の好きなのは、時そばの三木助師匠のようなエピソードが読めるところですね。三木助師の時そばを聴きたくなりますが私は聴いたこと無いような。CD出てるのかな?

ところで、なぜそのニ篇が割愛されたのかが気になります。
どちらも盲人が出てくる噺なので自主規制でしょうか。

投稿: nam | 2012年12月 7日 (金) 08時07分

>旧版を持っている
図書館で「松竹梅・田能久」のページをコピーすれば完全版になりますね。

>時そば

三木助「時そば」の引用から、「一つ、二つ…」の工夫がとても評価されていることがわかります。
今は「三木助全集」で聞くことができます。ひょっとこ蕎麦も入ってます。文京区で予約16件まで減りました。

投稿: snob | 2012年12月 7日 (金) 09時14分

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