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2013年1月20日 (日)

柳田格之進(1)

 この噺を聞いて誰もがひっかかるのが、帰参がかなった柳田が娘を身請けしないことです。あちこちのブログでも話題になります。
 この演目は志ん生を経ての流れであると思いますが、いろいろな落語家が無理なく解釈できるように工夫をしています。

 私も自分を納得させるためにむりやり解釈をひねりだしました。実話でなくとも、実際のところを想定するには江戸時代の武家の娘の身売りと身請けについて資料を見つけたいです。貧窮武士の娘の身売りは珍しくなかったようですが、売った家族はどう考え、どう扱ったのか。

 さて、最近2ちゃんねるの掲示板で、「柳田格之進」の原話について発言を見ました。初めて耳にする説でした。
 というのも、「千字寄席」では、「釈種であるが柳枝の速記に随筆があるとされるが不明」とあります。「落語事典 増補」や「落語大百科」では言及がありません。「落語三百題」にいたっては項目がありません。

 さすがに2ちゃん情報をそのまま記載するわけにはいきません。幸い、原典の明示がありましたので、昨日の図書館めぐりのコースに組み込みました。

 「爛柯(らんか)堂棋話」は、囲碁の棋譜と逸話を集めた本で、江戸時代の棋士・林元美が1849年に著したものです。その後大正時代に出版され、1978年に平凡社から「爛柯堂棋話 ~昔の碁打ちの物語~」1・2として復刻されています。今回はそれを借りました。
Rankado

 巻2に「処士、金をあがなう事」と題された一文です。思い切って全文をつたない現代語訳で。

 昔、泉州に豪商がいた。囲碁を好んだので、各地から碁の達人がやってきた。その中に江州の何某が城勤めをしていたが、讒言によって身を引いて、浪人となって堺にやってきた。手習いの師匠として多くの弟子を集めて生活をしていた。
 その浪人は、ときどき豪商の宅で囲碁の相手をつとめたが、あるとき、碁を囲んでいるときに、番頭が50両を紙に包んで「得意先からの利息でございます」と、主人に渡した。豪商は碁に夢中であったために「そこにおいておきなさい。後でみます」といって、対局にもどったので、番頭はそのまま去った。
 後で、番頭がその金のことを再び主人に申し出ると、「受け取った覚えがありません」といった。「渡しました」と問答になったが、金は出てこない。よく考えると番頭が来たことは覚えがあるが手に取った覚えがない。主人に思い及ぶのは「その時ほかにやってきた者もないし、居合わせたのは手習いの師匠の猪飼さんだけだ。金に目のくらむ人とも思えないが、人はときとして心持が変ずるものだ。もし貧しさに負けて持ち帰らなかったとはいえません」
 番頭は「それはまず、猪飼さんに間違いありません。それとなく聞きただしてみましょう」といって、ついでをよそおって猪飼のもとに行き、話題にした。

 「このほど、あなた様が主人と囲碁を打った時に、わたくしが金子を持ってまいりましたが、それが見当たりません。あなた様をお疑いするわけではございませんが、他にその席に参ったものもございません。お帰りになった後になくなったものですから、何かと取り違えてお持ちになったようなことがございませんでしょうか。主人の心やすいあなた様ですのでお伺いするのですが」

 すると、しばし猪飼はしばし首をかしげた。「さようでござるか。流浪の身のはかなさ、金額に目がくらみ、知られぬうちに持ち帰リ申した。くれぐれも他言はしてくださるな。夜明けには金を整えてお返し申す。しばしお待ちくだされ」というので、番頭は帰宅して主人にそれを告げた。主人もそうだったかと驚いた。

 そのあと十日あまりして、金五十両を持って来、主人に詫びて渡して帰宅した。一人の娘を連れてどこへとも知らずいなくなった。豪商のうちでは「人は見かけによらないものだ」とそしったものだった。
 しかし、その年の暮れ、すす払いの時に、座敷の長押に反故に包まれた金五十両が出てきた。だれもが「これはどうしたこと」と集まって改めてよく見たが、あの折の利息金で手習いの師匠を疑ったときの金とわかり、互いに顔と顔を見合わせて、取り返しのつかないことと後悔をした。相談をしたが師匠の行方がしれないので、是非もなくそのままであった。

 そして五年がたち、小刀・包丁の類を仕込みに来た尾張の商人があった。堺の問屋の店で「こちらの土地に、手習いの師匠をなさった猪飼というかたがございませんでしたか」と質問をした。その家の主人が「五年ほど前に、浪人をなさって貧しさのあまり、豪商の家で金五十両を盗んで、どこへともなく去った人がおりました」と答えた。尾張の商人は「それは本当ではありません。その金は手習いの師匠が盗んだものではなく、だれか他のものだそうですよ。私ども、その師匠の娘さんと会って、詳しく話を聞きました」。問屋の主人が「どこでお聞きになりました」と問うと、

 (つづく)

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コメント

これは興味深い。
落語の柳田格之進とほぼ同じエピソードですね。
囲碁の関連書にこんなはなしが出ていようとは。
これを出自として良いのでしょうか。

続きを楽しみにしています。

投稿: nam | 2013年1月20日 (日) 16時24分

読んでいて興奮して来ました。
これは凄いですねえ(^^)
完全に元の噺となっていますね。
続きを期待しちゃいます(^^)

投稿: hajime | 2013年1月20日 (日) 18時47分

namさん、hajimeさん
現在鋭意校正中、あとしばらくお待ちください

投稿: snob | 2013年1月20日 (日) 21時43分

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